黎明のワルツ -Title-
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第18話 女帝の女 / 星の男 [プロット版]

アム:光太郎! 光太郎!!

意識を失っているため、無慈悲に流されていく光太郎と、なんとか光太郎に追いつこうと必死に泳ぎながら手を伸ばすアム。しかしすさまじい濁流に抗えず、どんどんと光太郎との距離は離れていき、ついには見失ってしまう。

アム:(っ…このままでは私も…)

このままでは自分自身も危ういため一旦岸を目指し、なんとか陸へ上がるアム。しかし、落下から濁流の中を泳ぐ…という連続の行動に流石に疲弊し、肩で息をている。

アム:ハァ…ハァ…私達は一体、何里流されたんだ…

アム:(このまま闇雲に探しても埒が明かない…。この大河は大陸イチの巨大な運河…この先に流れが緩やかになるポイントが有るはず…。光太郎を見つけるならそこか…。)

河岸の大岩に背中をあずけ、呼吸を整えながら思案するアム。

アム:(…だがどうやってそこまで行く。走っていくか…?…いや、ダメだ。仮にそこで光太郎に出会えたとしても、この先は灼熱の砂漠地帯…いずれにせよ、十分な備えがなければ先へは進めない。)

アム:(今ここで一番近くの村に戻って体勢を整えるしか無い…)

自分がこの場所から一旦離れることがどれだけ光太郎を危険に晒すか理解しながらも、一度撤退し装備を整えなければならない現実に、歯ぎしりをするアム。憎々しげに巨大な運河を睨みつける。

アム:(光太郎…必ず戻るッ! それまで…どうか…!)

本人も大きく疲弊しながら、それでも気持ちを切り替えて走り出す。そしてそんなアムを大河の崖の上からみつめる馬上の人物がいた。

???:…………。

村を求めて走り去るアムを見つめる赤髪の女騎士。彼女もまた無言で本人もまた去って行った。


河を流される気絶した光太郎。河は次第に濁流からゆったりとした流れになりつつも、揉まれるようにゆらゆらと水中を漂い、そして沈んでいく。

光太郎:………。 

意識はないまま、夢を見る。

【吊し人】の男に襲われた夜に見ていた夢と同じく、真っ白の地平線しか見えない場所をてくてくと歩いてる。

光太郎:あり? ここは…? 俺、何してたんだっけ?

今自分が河を流されて死にかけてるとはつゆ知らず、はて? という感じで首をひねる。そんな光太郎に、背後から声がかかる。

???:ここはキミの夢の中だよ。心の中とも言う。

振り返る光太郎。目の前に、以前も夢で出会ったもう一人の自分が居る。

光太郎:お前、誰よ。

???:僕は、キミだよ。

光太郎:はぁ〜? 俺ちゃんは俺ちゃんだけだよ。お前じゃねぇ。

不審者を見るしらけた目つきで謎の自分を見る光太郎。警戒心MAX。

???:僕もまた、キミさ。今はキミと同化しているから、僕もキミ自身なんだ。

光太郎:今?同化?

???:……。

光太郎:――! お前もしかして、アルカナシンボルか。 え? アルカナシンボルって意識とかあんの!? そういうもんなの!?

愚者:もちろんないよ。アルカナシンボルに意識や自我あるわけじゃない。今喋っている僕は、キミの潜在意識なんだ。

愚者:君はアルカナシンボルという触媒を通して自分自身と対話をしているだけでもある。

光太郎:僕とかキミとか自分自身とか…意味わかんねーんですけどぉ…

不審者を見る目つきからゲッソリした顔になる。そして向き直り少し真面目顔に。

光太郎:でもお前がアルカナシンボルだってなら、一つだけ言いたい事がある。

愚者:………。

光太郎:お前なぁ!なんっっっで俺だけ福音とか言うチートパワーがねぇんだよ!ふざけんなlおかげさんでまいどまいど死ぬ思いしてんだぞっ!やいコラ!

光太郎:えこひいきしないで俺にもなんか超能力くれよほほほ〜い(泣)!

ガバッと襲いかかるように偽光太郎の胸ぐらをつかみ、まくし立てる。しかし偽光太郎?は動じること無く無表情のままである。

愚者:それは違う。事実ではない。

光太郎:ああん?

愚者:使う気がない。ただそれだけ。

光太郎:はぁ?

愚者:使う気がないから、使えない。使えないというのはつまりそういう事。

光太郎:…何言ってんだ? お前いちいち言うことが難解すぎるぞ。

半分おちゃらけた光太郎を見透かすように言う偽光太郎に、光太郎のテンションもシリアスに戻る。しかし偽光太郎の言葉の真意がわからず、頭に手を当てる。

愚者:福音とは戦う能力。即ち、相手を傷つけるための能力(チカラ)―そう思ってる。

光太郎:……ッ!!

愚者:だから、知らず知らずに、心に戸惑いが生まれる。戸惑いはブレーキとなり、枷となる。それ枷を解き放つには『覚悟』という鍵が足りない。

愚者:そのことに気づきたくないから『使いたいけど使えない』と嘯く。

光太郎:お、俺ちゃんがチキってるって言いてぇのかよ

愚者:それも違う。戸惑うのは、優しいから。

光太郎:………………えぇ〜

愚者:今はまだそれでいい。いつか本当に必要な時がくれば、枷は外れる―

ふわ、と足が浮く偽光太郎。自然に体も薄くなっていき、霧散するように消えていく。夢から覚めようとしている。

光太郎:おい、待てよ!話はまだ途中…

声も次第に遠くなっていく。勝手に言いたいことだけ言って消えていく愚者に、手を差し伸ばして消えないように捕まえようとするも、愚者はすり抜けていく

愚者 ―覚悟とは……

愚者が散りぎわに何かを言った気がするが聞き取れなかった。

光太郎:…ッ!!!

バシャアアアアン!

夢の中で愚者へと伸ばした腕は現実にリンクし、河の水面から何かを掴もうとするように光太郎の手が勢い良く飛び出す。そしてそのまま光太郎が顔を出す。

光太郎:ブバッ! ゲッホッ!

バシャバシャともがきながらも何とか岸に向かって泳ぐ。

光太郎:ゲハっ! ゲホッ! ………ぐぅ、う…

何とか岸へたどり着いた光太郎。四つん這いの状態で口に入った水を咳き込みながらそのまま、力尽き、ドサリと倒れてしまう。無防備に河岸で気絶している光太郎に、馬?のような生き物に乗った謎の人物が静かに近づいていった。


再び意識を失い中の光太郎の頭の中に、さきほどの愚者の言葉が響く。

愚者:―覚悟とは、未来を切り拓かんという意思によって生み出されるものだから―

先程、聞き取れなかったはずの言葉は今度こそクリアに聞こえ、その声に起こされるかのように、目を見開く光太郎。日は既に暮れ、夜である。

光太郎:…う……つぅ…

体中が悲鳴を上げる中ムクリと体を起こしてみれば、自分の学ランは脱がされ毛布のようなものにくるまれている。どうやら介抱されていたようで、ところどころに怪我を治療した跡もある。すぐ横ではパチパチと焚き火の火花が爆ぜる音がする。

女性:おや? 結構早く目が覚めたね。

焚き火の向こう側で女性が一人座っている。焚き火にかざしながら何か食べ物を焼いている様である。

背後には馬…というよりはラクダのような生き物が二頭おとなしく立っている。

光太郎:…………あ〜〜??…なる…ほど

ぼんやりとした表情で周囲をキョロキョロ見回しながら状況把握に務める光太郎。

光太郎:俺は河を流されて…おねーさんが俺を拾ってくれた…そんな感じ?

女性:おおむね正解。河沿いを歩いてたらね、倒れたアンタを見つけたのさ。生きてるとは思わなかったけどね。でも私は『おねーさん』なんて歳じゃないよ。立派なおばさんさね。だからそこは不正解かな。

光太郎:そう? 十分おねーさんの範疇ですけど。ともかく、助かったよ。ありがとう。

光太郎:……。 

口ではおどけながらも相手を警戒し、スッと左手を隠すように背中に回す。

女性:ふふっ。アルカナシンボルの共振が気になるかい?

光太郎:どきーん。

図星を疲れてギクリとした顔を見せる光太郎。努めて冷静なフリをしていたものの、実は目の前の女性から感じる共振に警戒をしていたが、見透かされていた。

女性:そ。お察しの通り、私もアルカナ戦士って奴さ。

腰布をまくってみせて腹を見せる女性。ヘソの横辺りにアルカナシンボルがある。

マフクレア:私は【女帝】のシンボルを持つ。マフクレア・クライディ。旅の貿易商さ。貿易一族のクライディ家って言えば、アンタも名前くらい聞いたことあるんじゃないかい?

光太郎:ほう…あの例のあの〜…アレですか(うむ。当然知らん)

マフクレア:そうそう。ま、生まれついての商人一家でさ、戦いなんかしたこともない。だからさ、石なんか握りしめて警戒しないどくれよ。

そういって視線を送ると、ポィッっと焼けた魚を光太郎の方へ投げる。光太郎は右手でキャッチ。魚から香ばしい匂いがすると、グゥとお腹がなる。マフクレアからは悪意が感じられず、ようやく警戒心をとく光太郎。マフクレアからは視覚になるように隠した左腕にさり気なく握っていた石を捨て、魚にかじりつく。

光太郎:俺ちゃん【死にぞこない】のシンボルを持つ光太郎っての。よろしく。もぐもぐ

マフクレア:ははは、おかしな奴だよ。

光太郎:むふ♪ よく言われる。


一方、時を同じくして、ようやく一番近い村(とっても、今まで滞在してきた村よりもずっと貧相でくたびれた小さい村)にたどり着くアム。

アム:フゥ… ようやく、ついたか…。随分小さな村だが…

アム自身、かなり疲弊しており、フラフラとした足取りで村を見渡すと、すぐ先の建物に道具屋の看板が出ている。隣には馬蔵もある。

アム:助かった。馬と食料の類はありそうだ。

小走りに馬蔵の方へ行くさなか、酒場の前を通り過ぎた所で、不意に脚を止める。

アム:……?

うまく言えないが、酒場から異様な威圧感を感じる。姿を見ずとも気配を感じさせるほどの手練の者が酒場にいることを予感させた。

アム:(…いや、いいか…)

酒場の中から漂うその威圧感の正体を確かめるべきかと思いつつも、その余裕がない事に口惜しさを感じ、再び馬蔵の方へと走り出すアム。


???:III型指名手配犯、ジノ・ゴズリングだな?

一方、酒場の中。

黒い外套(マント)を羽織った男の手からピッと投げられた指名手配書は、ヒラヒラと目の前のソファーにふんぞり返る、ジノと呼ばれる大男の足下へと落ちる。

酒場は小さな村にしては比較的大きな建物の酒場だが、店内はジノによって荒らされており、テーブルは倒れ、酒瓶や樽などが散乱。その一番奥の、一番豪勢なイスにジノは座っている。

カウンターの向こうでは顔を腫らせて震えるマスターが黒衣の男とジノをちらちらと見ている。

ジノ:なんだお前、賞金稼ぎか?

???:そう捉えてもらって結構

ジノ:ヒュー♪ 俺ってやつぁいつの間にかIII型指名手配犯だったのかよ。 III型っていやぁ、デッドオアアライブだったよな? 俺の事殺すのかい?

足下に落ちた手配書をニヤニヤと眺めながら余裕の態度で迎えるジノ

???:お前次第だ。

ジノ:…………くく。

ジノ:くくくくく! あーはははははははっ!

こらえきれんとばかりに吹き出して爆笑するジノ。

ジノ:その野暮ったい格好、お前晶術士だろうが! 武器もなく、詠唱を護ってくれるガードもなしにこの俺様と渡り合うつもりか。ははは!その図々しさ、気に入ったぜ。名前を聞いてやるよ!

ジノ:答える余裕があればなぁ!!

一転した怒鳴り声を合図に、ジノが脇に立てかけて合った戦斧を持ち、斬りかかる。大男とは思えぬ素早い行動で、閃光のような剣戟が黒衣の男の方へと伸びる。

???: ―!


同時刻、同場所。村の入口。
新たにこの小さな村に到着したものがいた。

ランツ:ふぅ………。

ランツ:(村を出て一体どれくらい経っただろうか…。村を襲った盗賊たちは “南の奴隷市場” って言ってたからひたすら南下してきたけど…寄る街、寄る街で聞き込んでも一向にエリルどころか他のアルカナ戦士にだって出会いはしない…。)

疲れた顔で村をきょろきょろと見渡すランツ。村は小さく、活気もあまりない。

ランツ:(ここも駄目だろうな…)

悲観的にてくてくと歩くランツ、ふいに近くにいた村民の世間話が耳に入る。

村人A:おい、向こうの酒場ですげぇ戦いが起こってるみたいだぞ!片方が賞金首だって!

村人B:おお、おっかねぇな。

村人A:しかも、もう片方はどうやらアルカナ戦士っぽいぞ!

ランツ:(何だって――――!!)

その言葉を聞くやいなや、酒場へ全力で向かうランツ。もしかしたらそこにエリルにつながる何かがあるかもしれない…!そう思いながら息を切らせて道を走る。

ランツ:(エリルッ!)

ランツ:(酒の看板!あれだ―!!)

バッゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

酒場は、空から降ってきた極太のレーザーのような光線によって大爆発した。

ランツ:ぎゃー!!   ゴロゴロゴロ!

爆風で酒場近くにいたランツも吹きとぶ。
まるで荒野を転がるタンブルウィードのように豪快にゴロゴロと転がっていった。

ランツ:な、何なんだ一体!

転がりつつも、すぐに起き上がって酒場を見る。しかし、酒場は木っ端微塵になって跡形もなく吹き飛んでいた。吹き飛んだ酒場の中心、くすぶる煙の向こう側で一人佇む男の影が。

酒場のマスターは、黒衣の男が貼ったと思われる結界によって守られ無傷だが、ジノは血だらけで完全に気を失っている。さっきの空からのレーザービームが黒衣の男の唱術だとするならば血だらけになりつつも一応生きているジノもまた大したものだろう。

???:………名前か。私の名は―

戦いの最中に脱いだのか、先程までの黒の外套はすでになく、戦闘用のジャケットと不気味な剣を携えた男が、独り言のように呟く。

???:【星】のアルカナ戦士。ルーファス・クルセージュ

ルーファス:名乗ったところで…聞く余裕はないようだな。

白目をむくジノに吐き捨てるように言うルーファス。言いながら、ギュム!とベルトを締め直した左手のグローブには、甲の部分がくり抜いてあり、そこから【星】のアルカナシンボルが輝く。

ランツ:(星のアルカナ戦士…)

ルーファスという男を離れた場所から見るランツ。
ランツは初めて出会う他のアルカナ戦士にゴクリと生唾を飲み込み、同時に戦慄したかのような表情でその場に立っていた。

to be continued

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